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札幌家庭裁判所小樽支部 平成2年(家)340号 審判

申立人 河野千里又は島田千里こと金千里

主文

申立人が、本籍北海道函館市○○町××番地の×筆頭者河野光太郎の戸籍(出生当時の母の戸籍)に、次のとおり就籍することを許可する。

氏名    河野千里

母の氏名  河野美智子

母との続柄 女

出生年月日 昭和25年4月16日

理由

1  本件記録によれば次の事実を認めることができる。

(1) 申立人の母亡河野美智子は、大正15年12月3日亡河野光太郎及び同マサの長女として出生し、昭和21年6月17日今井一郎と婚姻したが、翌昭和22年1月7日これと協議離婚した。美智子は、昭和23年11月6日金信明との婚姻届を提出したが、同人が韓国籍であったため、同女も右婚姻により韓国籍を取得し、その結果、日本国籍を喪失したものとして、亡河野光太郎を戸主とする戸籍から除籍されるにいたった。

なお、美智子が金信明と婚姻した当時においては、朝鮮は我が国の統治下にあり、いわゆる日韓併合当時の韓国民には日本国籍が付与されていたが、朝鮮は外地と称されて従来の日本の領土である内地と区別され、そこで適用されるべき法令として特に朝鮮民事令が制定、適用され、また、戸籍についても、朝鮮の戸籍法に基づく別個の戸籍が整備されていた。また、当時は、内地人女性が朝鮮籍の外地人男性と婚姻し、その家に入ると、内地人女性は外地籍に入り、内地籍からは除かれることとされていた。そして、その後、昭和27年4月28日の平和条約発効により、我が国は朝鮮の独立を承認することになったが、その際、従前、朝鮮の戸籍法令に基づき朝鮮の戸籍に記載されていた者はすべて朝鮮の国籍を有するものとされ、これと同時に日本国籍を喪失するものと解された。

以上の経緯により、美智子は、朝鮮籍にあった金信明と婚姻したことにより外地籍である朝鮮籍に入り、内地籍から除かれたところ、平和条約の発効当時外地籍にあったため日本国籍を喪失したものとして取り扱われてきたものである。

(2) 美智子は、その後函館に居住し、昭和25年4月16日申立人を出産したが、昭和32年ころ金信明と離婚し、昭和34年ころからは島田英男と内縁関係に入り、昭和35年ころには、同人の了解を得て、金信明が引き取っていた申立人を引き取り、これと同居するようになった。その後、島田英男と美智子は、昭和50年2月20日、正式に婚姻届を提出した。

(3) 申立人は、この間、昭和49年8月9日小山良一と婚姻し、昭和50年4月15日には長女ひとみを出産したが、昭和53年10月13日にはこれと協議離婚し、その後は、実家である島田英男及び美智子夫婦のもとで、その家業である塗装業の事務の手伝いをしながら、ひとみと共にこれらと同居するようになった。

この間、ひとみについては、申立人の離婚の際に親権者を母とする旨が合意されたものの、申立人の戸籍がないため父である小山良一を筆頭者とする戸籍に記載されたままであったが、昭和56年12月23日島田英男及び美智子夫婦との間で養子縁組をし、同人らの養女として島田英男を筆頭者とする戸籍に記載されるにいたった。その後、昭和61年8月13月に、美智子が死亡した。

(4) 申立人は、美智子死亡後、日本国籍を取得するため帰化手続をとることとし、韓国から金信明の戸籍を取り寄せたところ、同人は、すでに美智子と婚姻届をする以前である昭和15年3月22日に同じく韓国籍を有する兪栄順と婚姻しており、右婚姻はその後も解消されていないことが判明した。

(5) 申立人は、自分が日本国籍を有するとの判断を前提に、就籍手続をするために、既に死亡により除籍済みの就籍されるべき美智子の戸籍の回復等を求めて、平成3年5月29日札幌家庭裁判所小樽支部に戸籍訂正の申立てをしたが、同裁判所は、前記(1)ないし(4)と同一の事実関係を認定した上、美智子と金信明との婚姻は重婚であり、当時の朝鮮の慣習により無効であり、したがって、美智子と金と婚姻届をしたことによって朝鮮籍を取得することはなく、本来内地籍のままであったものと解されるから、平和条約発効後も、韓国籍を取得することなく、日本国籍を有するものと判断し、主文掲記の美智子の戸籍の回復等を求める前記申立てを認容する審判をした。右審判は平成3年7月26日確定し、これに基づいて美智子の戸籍は回復された。

2  以上によれば、申立人には、当時の国籍法3条が適用され、日本人である母から生まれた子として、出生により日本国籍を取得したことが認められ、その後これを喪失すべき事情も認められないから、現在も日本国籍を有するものと認められるところ、既に見たとおり戸籍に記載されていないものであるから、前記に認定した事実に基づき、主文のとおり就籍させるものとする。

(家事審判官 原田晃治)

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